韓国のeSIMなのに、IPアドレスがシンガポールになるのはなぜか?

ケダント(Kedanto)の韓国eSIMでIPアドレスがシンガポールになるのは、この回線がローミング回線だからです。スマートフォンは韓国でSKテレコムかLG U+の電波につながり、その網がデータをシンガポールにあるインターネットの出口まで運びます。ウェブサイトから見えるのはその出口だけなので、相手には「シンガポールからの接続」に見えます。一方で、アンテナ表示、5G・LTEの表示、地図上の現在地は韓国のままです。以下はケダントの韓国ページと設定ガイド、GSMAのローミング指針、Google・Netflix・KB国民銀行のヘルプをもとに、2026年10月10日に確認した内容です。
なぜ韓国のeSIMでシンガポールのIPアドレスになるのか?
データが二段階で流れるからです。まず韓国の電波網、次にシンガポールのインターネット出口です。 ケダントの韓国ページは、このeSIMがSKテレコムとLG U+の回線を使い、「インターネットの通信はシンガポールを経由して出るため、韓国の一部のサイトやアプリでは海外からの接続として扱われることがあります」と書いています。設定ガイドには「旅行用回線のデータローミングをオンにします」という手順があります。つまりこの回線は、韓国の通信会社の契約者ではなく、韓国の網に乗り入れている「訪問者」です。
携帯電話業界の団体GSMAは、ローミング指針(文書IR.88、第28.0版、2024年5月)でその仕組みを整理しています。ローミング中の通信は、訪問先の網がトンネルでSIMの発行元側のゲートウェイまで運ぶ「ホームルーティング(Home Routed)」か、訪問先の網の中でインターネットに出す「ブレイクアウト」のどちらかの形をとります。韓国のIPアドレスになるのは、韓国の中で外に出る場合だけです。ケダントの韓国回線は出口がシンガポールにあるので、ウェブサイトに見えるIPアドレスもシンガポールのものになります。
ネットの掲示板ではIR.21という言葉を見かけるかもしれません。これはGSMAのローミングデータベースで、通信事業者がローミング相手に必要な技術情報を登録するものです。端末の設定項目ではなく、スマートフォン側で出口の場所を変える方法はありません。ケダントは韓国プランのAPNを案内しておらず、その欄を触らない理由はつながらないときの確認手順に書いています。
それでも韓国の回線につながっているのか?
はい。電波、エリア、5G・LTEの表示はすべてSKテレコムかLG U+のものです。 韓国の商品ページはどれも回線を「SKテレコム・LG U+(5Gは対応エリアのみ)」と表示し、速度は場所・時間帯・混雑で変わると書いています。地下鉄やKTX、山道での電波状況は電波の記事のとおりで、この回線にも同じように当てはまります。
変わるのは電波の先の道のりです。ソウルとシンガポールは直線で約4,670km離れています。ソウルにあるサイトを開くと、要求はソウルからシンガポールを回ってソウルへ、返事も同じ道を戻るので、合計で約18,700kmになります。光ファイバーの中の光は1ミリ秒に約200km進むので、往復ごとに少なくとも90ミリ秒ほど余計にかかります。これは私たちの計算で、実測ではありません。実際のケーブルは直線より長く引かれています。地図やメッセージ、ビデオ通話が止まるほどの差ではありませんが、この回線のスピードテストが韓国の公表平均に届かない理由の一つで、詳しくは5Gの記事にあります。
自分の接続がどの国に見えているか、どう確かめるか?
Wi-Fiを切ってfast.comを開き、「詳細を表示」を押して「クライアント」の横の国名を見ます。 これはNetflixのヘルプセンターが、接続がどこからに見えているかを調べる方法として案内している手順です。ケダントの韓国回線ならシンガポールと表示されるはずで、VPNがオンになっているわけではありません。ホテルのWi-Fiでも同じテストをしてみてください。韓国のインターネット回線につながるWi-Fiなら、通常は韓国と表示されます。
Googleでも確かめられます。Googleのヘルプによると、IPアドレスからおおよその現在地を推定した場合、検索結果ページ下部の位置情報の欄に「インターネット アドレスに基づく」と表示されます。
シンガポールのIPを「海外」と見なす韓国のサイトやアプリは?
公式に確認できたいちばん分かりやすい例は、KB国民銀行の申込制のセキュリティサービスです。似た仕組みはほかの韓国のサービスにもあります。 KBの「海外IP遮断サービス」(해외IP차단서비스)は、申し込んだインターネット・モバイルバンキングの利用者が対象です。接続元のIPアドレスが韓国インターネット振興院(KISA)に登録された国内IPでない場合、振込、認証書の発行、預金・積立の解約、各種届出を制限し、照会だけは使えます。KBはKISAに登録されていないIPを海外IPと見なすこと、海外でバンキングを使いたい人は出国前にサービスを解約するよう案内しています。このルールでは、ソウルにいてもシンガポールから出ている接続は海外扱いです。
短期の旅行者で韓国の銀行口座を持つ人は多くないので、関係するのは主に韓国に住んでいる人、働いている人、留学している人です。カカオにも、カカオアカウントの「国別ログイン制限」という似た申込制の機能があり、メッセージアプリの記事で扱っています。オンにしている場合は、カカオから見て自分がシンガポールにいる可能性を考えておいてください。
外国のIPをすべて止めている韓国の一般向けサイトの公式な一覧は見つからなかったので、この記事では具体名を挙げません。韓国のサイトでモバイルデータのときだけ特定の手順が失敗し、Wi-Fiでは通るなら、まず疑うべきはシンガポールの出口です。
Netflixのラインナップは変わるのか?
変わることがあります。 Netflixの英語版ヘルプは、ストリーミングやダウンロードで選べる作品は国によって異なり(vary by country)、EU以外の国に旅行する場合は選べる作品が変わることがあると書いています。VPNについてのヘルプでは、fast.comに表示される国を「接続がどこからに見えているか」の目安にしており、ケダントの韓国回線ではそれがシンガポールです。つまりモバイルデータで見えるラインナップは、韓国のホテルのWi-Fiで見えるものとも、日本で見ているものとも違う可能性があります。
同じヘルプから、もう二点です。
- ダウンロード。 ダウンロードした作品は別の国では見られないことがあるので、日本で保存したものが韓国で必ず再生できるとは限りません。
- VPN。 別の国に設定したVPNはきれいな解決策ではありません。Netflixは、VPNアプリがデバイスを実際の場所とは別の場所から接続しているように見せ、エラーの原因になりうると説明しています。広告つきプランではVPNはサポートされません。
日本の番組配信も見ておきましょう。TVerのヘルプは「動画の視聴については、日本国内限定となっており、海外では視聴することができません」と書いています。韓国ではケダントの回線でも韓国のホテルのWi-Fiでも海外からの接続なので、TVerが再生できないのはeSIMの不具合ではありません。
Googleの検索結果がシンガポール向けになるのはなぜか?
端末の位置情報を使えないとき、GoogleはIPアドレスから現在地を推定し、ヘルプにも「IP アドレスは基本的に地理情報に基づいています」とあるからです。 Googleは、IPアドレスのほか、端末の位置情報、登録した自宅や職場の住所、過去の検索を現在地の手がかりとして挙げています。結果ページの下部に「シンガポール」と「インターネット アドレスに基づく」が出ていれば、それがシンガポールの出口です。
直し方は二つあります。
- スマートフォンの位置情報を使わせる。 Googleによると、多くの端末は正確な現在地を割り出せます。Googleアプリやブラウザに位置情報を許可すれば、実際にいる場所に合った結果になります。
- 地域を自分で選ぶ。 パソコンでは「検索の設定」の「地域の設定」で選びます。Android版Googleアプリでは、プロフィール写真から「設定」>「言語と地域」>「地域の設定」です。iPhone版Googleアプリでは「設定」>「その他の設定」>「言語と地域の設定」の「地域の設定」で選びます。日本の検索結果に戻したいなら「日本」を、韓国の店や施設を探したいなら「韓国」を選びます。
表示言語を変えても、この問題は解決しません。Googleのヘルプは、表示言語の設定は検索結果の言語を変えないと書いています。
銀行やメールから本人確認を求められることはあるか?
あります。相手から見れば、新しい場所からのログインだからです。 Googleの位置情報のヘルプは、おおよその現在地を推定する理由の一つとして、「今までにない都市からのログインなど、通常とは異なるアクティビティを検出してアカウントを保護」することを挙げています。旅行者向けのヘルプにも「新しい場所からログインする際、本人確認のために追加の手順を行うよう Google からお願いする場合があります」とあり、出発前に再設定用の電話番号とメールアドレスを確認すること、旅行中もその電話番号でSMSを受け取れるようにしておくこと、バックアップコードを用意することを勧めています。普段と違う場所からのログインを警戒する銀行やほかのサービスも考え方は同じで、ケダントの回線では、その「新しい場所」が韓国ではなくシンガポールになることがあります。
そのため、韓国にいるのにシンガポールの名前が入ったセキュリティ通知が届いても、自分のログインかもしれません。確かめるときは、メッセージ内のリンクではなく、アプリやサイトを自分で開いてください。普段の番号に届くSMSの確認コードは、eSIMではなく日本のSIMに届きます。その回線をローミングデータ料金をかけずに受信できる状態にしておく方法は、確認コードの記事にまとめました。
韓国のIPでないと使えないサービスはどうすればいいか?
その手順だけ韓国のWi-Fiで済ませ、位置を使うアプリにはGPSを使わせます。
- 失敗する一手順だけ韓国のWi-Fiで。 ホテルやカフェのWi-Fiは韓国のインターネット事業者の回線なので、通常は韓国のIPアドレスになります。決済や振込を始める前にfast.comで確かめてください。
- IPではなく位置情報を許可する。 位置情報を求める地図、タクシー、天気のアプリは端末自身の測位を使うので、シンガポールの出口で現在地の点が動くことはありません。NAVERマップとカカオマップは地図アプリの記事で扱っています。
- ネットワーク設定は変えない。 APNやネットワークの選択をどういじっても、出口は韓国に移りません。
- 毎日モバイルデータで韓国の銀行を使うなら、別の手段を。 長期滞在なら韓国の番号が付く韓国のSIMのほうが合っています。違いは長期滞在の比較記事にあります。ケダントはeSIMをインストールするまでは全額返金なので、QRコードを読み込む前に決めてください。
聖水洞のカフェで、韓国の予約ページが最後の画面で止まってしまったとき、まず開くべきは設定画面ではありません。カフェのWi-Fiにつないでもう一度だけ試し、通ったら次の目的地まで歩くあいだはeSIMに戻しておけば十分です。
データは出発前に用意を
SIMはそのままで、データ回線を1つ足すだけです。普段の番号は今のSIMに残ります(海外で電話やSMSを受け取れるかは、ご契約の通信会社のローミングによります)。
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